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食道癌について

食道癌ってどんな病気?

年間約26,000人の方が食道癌になります。その8割以上が男性で、男性に多い癌です。飲酒と喫煙が関連していることが背景にあると思われます。男性では7番目に多い癌ですが、それでも胃癌の4分の1程度です。食道癌になる人は年々増えていますが、食道癌でなくなる方はやや減少しており、早期で発見されるケースが多くなっています。

食道癌の原因は明らかではありません。しかし、お酒を飲んで顔が赤くなる人やタバコを吸う人に多いことはわかっています。また、60代の患者が全体の38%、70代が36%を占め、比較的高齢者に多い癌です。

胃癌もそうですが、食道癌も初期の段階では症状はありません。多くの方が「食べ物がつかえる」こと主訴に病院を受診されます。声がかすれたことで発見される方もいます。症状が出た時点でほぼ進行癌です。食道癌は早期の段階からリンパ節に転移する性質があり、これらの症状で発見された場合、ほとんどの方で転移が認められます。また、食道は気管や気管支、肺、大動脈と接しているため、進行するとこれらの臓器に浸潤する(食い込んで切除できなくなる)こともあります。この状態が進むと、「気道がつぶれて息ができない」「治らない肺炎に苦しむ」「胸の中に膿がたまって高い熱が出る」「大動脈から大出血する」など命にかかわる症状が出現します。もちろん、「食べられない」ことが最もつらい症状です。

診断に必要な検査

食道癌の治療を考えるには、正しく診断することが大切です。内視鏡検査では、場所と形、食道の狭さなどを評価し、組織をとって癌かどうか診断します。ルゴールという色素をまくと、より詳しく調べられます。周囲臓器との関係や転移の広がりを評価するには、CT検査が不可欠です。近年は、PET-CTも同様の目的で行われます。必要があれば、これらの検査以外の検査も行われます。

食道癌のステージと予後

食道癌では、症状が出てから診断される、つまり進行してから見つかる方が少なくありません。病期の進行具合、言い換えれば治りにくさを表す指標が、「ステージ(病期)」です。検査がすべて終わると、医師から「あなたのステージは〇です」と説明されます。最も早い段階が、ステージ「0」もしくは「I」です。それでも、治る人は80-90%です。10%程度の方で再発が認められます。ステージIIになると、60-80%、ステージIIIでは30-60%、ステージIVになると30%未満の方しか治りません。ステージには、国際分類と日本の分類があります。どちらのステージか医師に確認しましょう。

食道癌の治療

食道癌では、ステージによって行う標準治療が決められています。どのステージの人にどういう治療を行うと最もよく治るか現在の情報を基に専門家が検討し、「食道癌診療ガイドライン」にまとめられています。私たちの施設は、このガイドラインに基づいた治療を行っています。しかし、ガイドラインは病気だけを見て決められています。患者さんの体の具合や家庭の事情などは考慮されていません。私たちの施設では、ガイドラインに基づきながらも、患者さんのお体の具合や家庭環境などに配慮し、よく相談したうえで、患者さん及びご家族が最も納得できる治療を提供できるよう心がけています。

 

食道癌では、癌の状態や患者さんの全身状態に応じて、手術、放射線、抗がん剤(化学療法)、内視鏡治療などの治療が行われます。癌の治療以前に、栄養をつける(栄養療法)も大切です。病気の治療が困難な場合には、緩和ケアも大切な治療になります。

(1) 手術

食道癌では、最も標準的な治療です。それは、ベストの治療という意味ではなく、最も歴史があって治る可能性が高い治療という意味です。手術をしなくても治る人がいます。その場合、手術以外の治療がベストになります。

食道癌を切除するには、胸部操作が必要です。食道を切除した後は胃や腸を使って再建する必要があります。そのため、腹部の操作も必須です。2つの大きな部分を同時に手術する、大きな手術です。

胸部操作では、癌を切除するだけでなくリンパ節も一緒に切除します。しっかりリンパ節を切除したほうが、治りやすいことが分かっています。胸を切り開いて行う手術が一般的でしたが、げんざいはカメラを用いて穴だけあけて行う手術が広く行われるようになってきました。胸に傷をつけず、頸部から道具を入れて手術を行う施設もあります。

腹部操作では、リンパ節を切除しながら胃の一部を切除して、胃管と呼ばれる代用食道を作ります。この胃管を頸部まで引き上げ、食道とつないで再建します。胃が使えないときは、大腸や小腸を用います。専門施設では、頸部のリンパ節も同時に切除します。

体にかかる負担の大きな手術です。手術はうまくいっても、5%程度の方に命にかかわる合併症が起きます。これは現在でも変わりません。胃や大腸の手術と比べると、10倍以上です。また、手術では体を作り変えます。そのため、手術後は食べにくさが残ります。悪いところがなくなって元に戻るわけではないことをご理解ください。体力が回復するには、数か月かかります。ある程度食べられるようになるにも、数か月かかります。

手術の一番の利点は、食道の病気をコントロールすることができることです。たとえ再発が認められても、命にかかわる合併症が少なく、最後まで食べることができる方が多いようです。

ステージⅡ以上の進行癌では、先に抗がん剤治療を行ってから手術を行います。その方が治りやすりことが分かっています。

(2) 放射線治療

食道癌、特に扁平上皮癌では有効な治療法の一つです。食道癌では、切除できない人や手術に耐えられない人が少なくありません。こういう人には、放射線治療が行われます。特に抗がん剤と組み合わせて行うと、手術と同じぐらい治ることもあります。放射線と抗がん剤の併用療法は5-6週間かけて行われるため、体調に合わせて治療を調節することができます。そのため、命にかかわる合併症が少ないことがメリットです。また、これだけで治れば、食道が残るので今までと同じように食べることができます。その点が、手術と大きく異なります。しかし、食道が残るため癌も残る可能性があります。癌が残った場合や再度大きくなった場合、この治療をもう一度受けることができません。手術で切除するしかありませんが、手術はとても大変です。また、食道に照射するためには、どうしても周囲にある肺や心臓にも放射線がかかります。そのため、これらの臓器に重篤な合併症が起こることもあります。

ステージIの表在食道癌では、手術と同じくらい治るので放射線と抗がん剤を組み合わせた治療をお勧めしています。進行癌でも、ご本人が希望されればこの治療を行います。ただ、進行癌になると治るのは30%程度です。食道に癌が残ると、結局食べられなくなりますし、先ほど説明した重篤な合併症が起きるかもしれません。ステージⅣのような方では、癌の根治は目指せなくても病気の進行を食い止めるため、放射線治療を行われることがあります。 
 放射線治療には、重粒子線と陽子線という特殊な治療法もあります。通常の放射線治療と異なり、周囲臓器へのダメージが少ないことが一番のメリットです。これは、実施できる施設と病気が限られます。これらの治療を希望され病気として適応があれば、専門施設に紹介します。

(3) 抗がん剤治療(化学療法)

食道癌では、現在注目を集めている治療法です。抗がん剤治療は、これまで説明した通り手術や放射線と組み合わせて行います。抗がん剤治療だけを行うのは、「これから手術を受ける」「すでに手術を受けた」「再発した」「最初から手術の適応がなく抗がん剤治療しかできない」場合です。ノーベル賞で有名になったオプジーボが食道癌でも使用できるようになり、食道癌での抗がん剤治療は近年大きく様変わりしています。詳しい治療法は、担当の先生から詳しく説明を受けてください。

(4) 内視鏡治療

食道癌が小さくて浅いとほとんど転移しないため、内視鏡で切除すれば治ります。7-10日程度の入院でがんが治ります。体にかかる負担が最も少ない治療法です。もちろん、合併症がないわけではありません。また、内視鏡治療ができる条件は、詳しく決められています。年齢や全身状態によっては、条件を少し緩めて行うこともあります。担当の先生とよく相談して治療を受けてください。

(5) 緩和ケア

これも大切な治療です。患者さんの中には、癌の治療を受けることが生活になっている人がいます。私たちは、「患者さんが希望される日常生活を送れるようにする」ことを治療の大事な目標としています。病気を治すことより食べられるようにしてほしいというなら、手術以外のステント留置をお勧めします。抗がん剤治療で辛い思いをするより旅行に行きたいというなら、旅行に行けるように支援します。このように、症状を緩和して患者さんが希望される生活を送れるようにする支援がすべて緩和ケアになります。患者さんの希望になるべく沿いながらご家族の負担も少なくなるように配慮し、納得できる療養生活が送れるようにしたいと考えております。

病期別の治療

(1)早期癌の治療

癌が粘膜内にとどまると、「早期癌」と言われます。大きすぎなければ、内視鏡で切除するだけで治ります。当院では、7-10日ほどの入院が必要です。治療に伴い出血したり、切除後に狭くなったりすることがあります。食道癌は多発する傾向があります。同時に2個以上切除する方もいれば、数年後にまた切除する方もいます。

(2)表在癌の治療

がんが粘膜より少し深くまで入り込んでいるため内視鏡では治せないが、リンパ節転移がないため治る可能性が高い食道癌を「表在癌」と言います。ステージでいうと、「I」になります。当院では、放射線と抗がん剤を組み合わせた治療をお勧めしています。もちろん、手術もよい治療法ですが、放射線と抗がん剤でもほぼ同じくらい治ります。食道も残るので、治療前と同じように食べられます(手術をすると、明らかに食べにくくなります)。5‐6週間かけて行う治療なので、手術より安全な治療と言えます。もちろん、抗がん剤の副作用や放射線による傷害なども起こります。これで治らなかったら手術をすることになりますが、手術後の合併症が多くなるなどマイナスの点もあります。担当医の先生とよく相談することが大切です。

(3)進行癌の治療

進行食道癌は、「つかえ」などの症状が出るなど癌が大きくなった場合や、すでにリンパ節に転移している状態をいいます。ステージでは「Ⅱ」や「Ⅲ」に相当します。「Ⅳ」も進行癌ですが、非常に治りにくい状態で治療法も異なるので、後で説明します。

進行癌では、手術と抗がん剤治療を組みわせて行う方法が標準的に行われています。手術を希望される場合、まず抗がん剤治療を2-3回受けます。どれくらい効いたか評価したうえで、6-8週間後に手術します。手術の具体的な方法は、後で説明します。以前はここで治療終了でしたが、現在は手術後にも抗がん剤を行って、よりしっかり治そうというケースが多くなっています。

手術を希望されない場合、抗がん剤と放射線を組み合わせた方法も可能です。標準治療ではありませんが、この方法でも20-30%の方が治ります。追加で抗がん剤治療を行うと、治る人の割合はさらに多くなります。この方法で治らなかった場合、まだ手術で治すことができます(手術ができないこともあります)。この時の手術は外科医も相当大変で、命にかかわる合併症も起こりやすくなります。当院では、すぐ放射線と抗がん剤を組み合わせた治療を行うより、まず抗がん剤だけを行って癌を縮めてから行うようにしています。

(4)高度進行癌の治療

「すでに他臓器に転移している」「リンパ節にたくさん転移している」「癌が大動脈などに食い込んでいる」など高度に進行した場合は、治療法がかなり限られます。他の臓器に転移している場合、基本的に手術を受けることはできません。治せないからです。リンパ節にたくさん転移している場合も、同じ理由で手術は敬遠されます。大動脈が気管などに食い込んでいると、手術することができません。このような場合は、癌の状態に応じて治療法を考えます。抗がん剤、放射線、そして手術など様々な治療を組み合わせ、できるだけ癌の勢いをコントロールするよう努力します。それでも、治すことはとても困難です。明らかな症状がなければ、病気の進行を抑えることを目的に抗がん剤治療を行います。必要に応じて、放射線も併用します。症状があるときは、まず症状の改善を目指して治療を行います。食べられなければ、食道ステントや胃瘻を相談します。

癌と診断されると、よく「闘病」という言葉を耳にします。「癌に負けるな」という人もいます。癌を克服して健康な生活を取り戻すことはだれもが望むところです。しかし、戦い続けることは時に本人と家族に大きな苦しみをもたらします。患者本人が最もつらい思いをしますが、同時にご家族も精神的にまた経済的に苦しい思いをします。老々介護では、患者を支えることはとても大変です。共働きの場合は家人が仕事を制限しなければならないこともあります。そして、癌が克服されても治療の影響で障害が残ると、自立した生活が困難になることもあります。治療よりも長い期間、様々な症状に悩まされる方もいます。

がんと闘うだけでなく、「何が自分にとって大切か」今一度見つめなおしご家族とも話し合ってください。医学では、いかに長く生きたかでよい治療かどうかが決められます。私たちも癌の根治を目指して精いっぱい治療しますが、「長く生きる」ことだけを考えていると、時に「本当にこれでよいのか」と考えさせられることがあります。「癌と闘う」だけでなく、「癌とうまく付き合い、生活を充実したものにする」ことを心掛けたいと考えています。

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